愛月撤灯――何かに対する偏った愛を意味する言葉。昔、中国の詩人が月の光があまりに美しかったため、宴会の席の灯燭の明かり全て消したことに由来しています。
それくらい好きで、愛している趣味をひたすら語る。そんな連載です。
ごきげんよう、酸素です。「web記事書きたいけどネタがないな~」なんて言っている間に春休みの半分が終わろうとしていました。時の流れの速さを嘆くくだりはもう飽きたのでやりません。
ありがたいことに部誌(部室にあるノート。ほぼ交換日記)や友達に「読みたいからなんか書いて」とリクエストをいただいたので、「愛月徹灯」というシリーズ企画に参加することにしました。最初に説明を引用しましたが、要は合法的にヲタクとしてひとりで喋り倒せる企画です。
みなさま、最近本読んでますか?
私はというと、去年の春は1ヵ月で10冊以上読んでいたのに今では月に1冊も読まないことがざらにあります。なんか文章を目で撫でるだけで活字が入ってこなくなっちゃったんだよね。本読むほどの元気がないのかもしれない。これわかる人いるかな、本って精神状態が良いときしか読めなくないですか?
本を読んだり映画やアニメを観たりするほどの気力はないけど、何か作品に触れたい。
そんなときの救世主が、今回私が推したい現代短歌です。
みなさま、短歌って知ってますか?知ってますよね、知ってるはずです。
小中学生のとき夏休みに出されたよくわからない面倒な宿題だと思ってませんか。なーにが五七五七七だよ、と。私も最初はそんな風に思っておりました。じゃあどうして好きになったのって話ですよね。私が短歌に興味を持つきっかけとなったのは、バズっていたとあるツイートでした。
一枚目の伊藤紺さんの短歌に関しては、キャプションにもある通りこのツイートではないような気もしている……ので、どっちを先に見つけたのかは正直覚えていません。でもこの二つの歌だったことは間違いないです。ちょっと曖昧だけど許してくれよな!
一枚目は伊藤紺さんの『肌に流れる透明な気持ち』という歌集に、二枚目は木下龍也さんの『きみを嫌いな奴はクズだよ』という歌集に収録されています。
これらのツイートを見た私は、「ふーん……おもしれー短歌」となり、気づいたら現代短歌という沼にハマっていました。
高校の古典の先生が「昔の短歌は今でいうツイートです」って親しみを持たせるために言っていたけど、本当にツイート感覚で楽しめるから一回読んでみてほしいです。たぶん思ってるより面白いよ!
一、掟
どんな楽しみ方をするのも自由ですが、私の思う現代短歌を楽しむ上での鉄則を独断と偏見でひとつだけ紹介します。
それは、頭をからっぽにしろということ。
特に読書が苦手な人にありがちな気がするんだけど、読んだら何か必ず感想を抱かなきゃいけないような気がしていませんか?読書感想文の影響なのかな?感化されて考え方が変わったり、深読みして「こういうことが言いたい作品なんだな」と咀嚼したり。
もちろんそうして作品に触れた後の自分を言語化できるのは素晴らしいし偉いことだけど、必ずしもそういう風にならなきゃいけないわけではないってことを伝えたいです。自分がそれを好きなのか、刺さったのか、何か思うことはあったのか。それさえ分かればいいんです。
そんな感じで、「頭をからっぽに」というのは文字通り、変に三十一文字から意味を見出そうとしなくたっていいということです。
自分に刺されば勝手に背景や感情が想像されるので(自発の「る」ですね)、難しいことを考えないでもっと肩の力を抜いてゆるく素直に楽しんでほしいです。
世の中からの評価が高くても自分は好きじゃないとか、その逆も然りですが、短歌とそれを読んだ後の自分の感情をまるごと受け止めていきたいなと思うわけです。つまり白黒決めないでグレーでやろうぜって感じ?違うね?
二、魅力
先述したように、現代短歌は他の趣味と比べても受動的なのか、鑑賞にあまり体力を使わないので楽です。無理に昔の言葉を使わないのも私にはありがたいところ。
一つの歌が完成するまでには色々な過程や試行錯誤があって、余白や奥行きを持たせたり印象に残る言葉選びをしたりしているはず……だけど、読み手はその努力の結晶をお手軽に楽しめちゃうんです。高級なチョコレートみたいだね(伝われ)
とまぁたくさん良いところはあるけど、私の思う現代短歌の最大の推しポイントは多種多様な世界観を覗くことができるところです。
人は誰しもが自分の認知というフィルターを通して世界を見ているわけなので、短歌に現れたその人の世界観や世界の切り抜き方、捉え方がやっぱり自分のそれとは少しずつ異なるんですよね。
普段は知ることのないそういった差異が短歌を通して垣間見れるととっても面白くて楽しいし、色々な短歌に触れる中で相対的に自分の見ている世界がわかるのも新鮮で良いです。何より自分では意識しないと浮かび上がってこない事象や感情がパズルのピースがはまったように綺麗に言語化されていると感動します。
三、現代短歌紹介
色々語ったけど、つべこべ言わずに実際に見てもらおうかな。ちょっとでもいいなと思ってもらえればうれしいです。ここに載せたもの以外でもお気に入りの短歌や歌人さんがいるよ/できたよって人は連絡してね!♡
【シンプルに私が好きな短歌20選】
※順不同。正直選びきれなかったから上位20かと言われるとわからない
倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使/岡野大嗣
もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい/岡野大嗣
宝箱あけっぱなしにしておくよこわれたままで帰ってきてね/木下龍也
いつからか頭のなかで飼っている悩みがついにお手を覚えた/木下龍也
きつく抱きしめてわたしの胸に吹くつめたいすきま風をとめてよ/木下龍也
声にして意味の重さを与えれば音も私も壊れてしまう/木下龍也
あの人の恋を応援する 水をやり過ぎた花は枯れるらしいし/宇野なずき
楽しいだけとかってたぶんもうなくて楽しいたびにすこしせつない/伊藤紺
きゅうりしか食べられない時期もあったけど好きな人できたぜ、ザ・ピース/伊藤紺
愛された記憶はどこか透明でいつでも一人いつだって一人/俵万智
金曜の六時に君と会うために始まっている月曜の朝/俵万智
愛することが追いつめることになってゆくバスルームから星が見えるよ/俵万智
マスカラがくずれぬように泣いている 女を二十五年もやれば/佐藤真由美
全部好きだった訳じゃない何一つ嫌えなかった、そういう辛さ/中村森
好きだった雨、雨だったあのころの日々、あのころの日々だった君/枡野浩一
気づくとは傷つくことだ刺青のごとく言葉を胸に刻んで/桝野浩一
そばにいるだけがすべてじゃないぜ月は光るだけがすべてじゃないぜ/初谷むい
「お客様おひとりですか?」「ひとりですこの先ずっとそうかもしれない」/谷川電話
寝た者から順に明日を配るから各自わくわくしておくように/佐伯紺
体などくれてやるから君の持つ愛と名の付く全てをよこせ/岡崎裕美子
【番外編:キリ教じゃん】
あとがきに「ぼくを嫌いな奴はクズだよ」と書き足すイエス・キリスト/木下龍也
※キリ教:必修の授業、キリスト教人間学のこと。私は高校が仏教校だったのもあって、仏教の方が好き。chu!クズでごめん
四、歌集選び
そうですね、手始めにTwitterの短歌botをフォローするところから始めましょうか。
流れてくる短歌を気の向くままにいいねしていると、いずれ「この人の歌好きだな」が見えてきます。
ただそれだと少々時間がかかるので、「とにかく早く現代短歌界隈に足を踏み入れたいわ」って人には初心者向けとして(?)木下龍也さんの『あなたのための短歌集』をおすすめします。最近Twitterでもよくバズってる気がする。
これは木下龍也さんが依頼者さんのお便りにこたえていく形でつくった短歌を100首収録していて、右ページに依頼者さんのお話(「こんな短歌をください」)、左ページに短歌が載っています。
100首あるので何かしらは深く心に刺さるはずですし、読み返すたび自分に響くものが変わるのが面白いです。ちなみに私が最初に買った歌集もこれでした。
きっかけなだけあって木下龍也さんの歌集はよく買っています。現代短歌界ではかなり有名な方なので、基礎基本だと思って見てる。11月の『オールアラウンドユー展』にも行ってきました。ひとりで。なんか文句ある?
最近は俵万智さんが好きです。俵万智さんと言えば「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」や「寒いねと言えば寒いねと答える人のいるあたたかさ」が有名だと思いますが、それ以外の歌も繊細でとってもお気に入りです。
人の使う言葉ってどこか癖があるというか、言葉選びに個性が現れるなぁと短歌を読んでいると感じます。文章もそうだけど、文体が好みかどうかって結構大事よね。文体が好きじゃないと「ええい!」って投げ出したくなるし(?)
先ほど個性と言いましたが、私は自分の触れてきた言葉しか使えないと思っているタイプの人間なので、本が読めない時期にも極力言葉には関わっていたいんですよね。同じ作品を読んでいればいるほど共通言語が多いみたいな認識です。本を読む理由は語彙力のためじゃなくていいし実際私もそうじゃないけど、作品を通して副次的に得られるよねってこと。人間としての深さのようなものを感じるからかな、言葉を大切にしている人って無条件で好きです。loveの意味じゃないですよ、好きって200色あんねん。
五、まとめ
いかがだったでしょうか。ポエマーだのなんだの言われてしまう分野な気がしているので、一方的に語れるのがストレスフリーで私は楽しかったです!まぁ言いたい人には言わせておけばいいんだけどね、単にその時のその人には届かなかっただけだから。いやー、このスピード感でレポートも終わらせたいものです。少しでも現代短歌の魅力が伝わっていたらいいなぁ。
現代短歌、ゆっくりとしかし着実に流行ってきているので、古参になるなら今のうちですよ。もっとも、何百年も前の「本物の」古参には勝てないわけですが……😉
私の長ったらしい趣味全開トークにここまでお付き合いいただき、ありがとうございました♡
最後に記事を利用して終わろうと思います。職権乱用。
【お願い】
佐藤真由美さんの歌集『プライベート』を見つけた方はご連絡ください。廃版してるから見つけられなくて悲しいです。お金は払うので……お願い……
「今すぐにキャラメルコーン買ってきて そうじゃなければ妻と別れて」がとっても有名です、インパクトすごいよね……
追記(2023年11月10日)
『プライベート』、誕生日プレゼントとしてぴのさんがくれました……どうやって見つけたんだろう……本当にありがとうございます……(写真は上手く撮れ次第追加します ^_- ♡)
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