大学生のヒトリゴト vol.1『 6インチと夕焼け』

6インチと夕焼け

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 その日の夕方はホームに人がいなかった。いつも最前列に並ばないと座れないような路線なので不思議に思ったのを覚えている。そう、秋にしては肌寒い日だった。席についてから息をついて耳にイヤフォンをはめ、携帯音楽プレイヤーで曲を流した。スマートフォンを取り出してメッセージアプリの確認をする。授業の前に確認したきりだったからか、アプリは通知でごった返していた。地元や学部の友人、サークルの先輩、バイト先の後輩たちがどうでもいいような出来事から重要な連絡まで。昔は離れた相手に情報を伝えるのも一苦労だったろうに、インターネットは偉大である。そんなことを考えているとドアが閉じ電車が動き始めた。一つ一つに返事をした後、SNSを開いた。ネットを通じて世界各地の出来事や、美しい風景が私のところへやってくる。こんな世の中ネット無しじゃあもうやっていけないな、そう思った。

どれくらい時が過ぎたか、 寒い、と感じ顔をあげた。いつの間にか眠ってしまったようだ。周りには誰もいない。数少ない同乗人たちが降りていったようだった。防寒具は持ってきていない。寒さは我慢するしかない。そう思いスマートフォンに目を戻そうとしたが、何かが足りない気がした。考えようとしてすぐ分かった。音楽が止まっていたのだ。画面を操作し曲をかけようとしたが反応しない。バッテリーが切れたようだ。イヤフォンをしまう気にならず耳にはめたままにし、もう一度スマートフォンに目を戻す。すると今度はスマートフォンが動かない。こちらも電源切れだった。

 

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朝充電をしなかったことを悔やみつつ、今後のことを考えた。最寄りの駅まで約40分。音楽はかけられない。スマートフォンも充電切れ。読んでいる本も家の机の上だし勉強はする気にはならない。眠気はどこかへ行ってしまった。寝ていたんだから当然かと思いつつ車両を見渡すと、遠くにいる1人の女子高校生が目に入った。彼女はイヤフォンをしていて、歌っているつもりなのだろうか、口まで覆った暖かそうなマフラーがもぞもぞと動いていた。手にはスマートフォンを持っていて、親指は上へ下へとせわしなく動いている。彼女は僕と同じ方を向いて座っていていた。そんなことはないのに、なんだか見せつけられているような気分になりつつ、とりあえずイヤフォンを外した。車両はビルの影に身を潜めるように進んでいき、車内は暗く肌寒かった。窓から見える暗いビルの壁を眺めるわけでもなく視界にいれ、ただ時が過ぎるのを感じていると、突然眩しさを覚えた。

冬の夕焼けは美しい。太陽は金色に輝き、遠くの空を紅く染めていた。月はなく、手前の空は暗い青で覆われている。境界は曖昧で、様々な色が見いだせた。空に浮かぶ雲は空よりも濃い青で、暗い青空の中でも重く存在感を放っていた。美しい。文句のつけようがない夕焼けだ。そう思ったのもつかの間、その風景は元のビルの壁に変わってしまった。

しばらくして 最寄り駅に着き外へ出た。気が付かなかったが、彼女の居た席には何も残っていなかった。彼女はどこか別の駅で居りたのだろう。家へ帰る途中、彼女があの夕焼けを見たらどう感じただろうだなんて、意味のない仮定をしてみたりした。6インチに満たない画面に没頭するあまり、あの一瞬の美しさを逃した彼女は、朝携帯の充電を忘れなかった僕だったのかもしれない。

投稿者: Yosuke Minato

Yosuke Minato
通称しばふ。理由は髪質が芝生のようだから。髪はシャーペンを縦に2,3本刺しても倒れないぐらいの強度を持つ。 猫、紅茶、珈琲と未来を明るくするテクノロジーが好き。好きな雑誌はWIRED。 実はソフィア祭の実行委員でもある。